納税通信 第3404号 2016年1月4日

 

 欧米各国の状況を調べてみると、それぞれのお国柄が反映されていて興味深い。

 

 イギリスは第二次大戦中に敵軍との区別化のために番号制を導入するが、戦後52年に廃止される。だが08年にブラウン内閣がIDカード法を創設。これに対し、「プライバシーおよび市民的自由に深刻な脅威をもたらす」と反対の声が上がり、10年に政権交代で制度は廃止された。

 

 ドイツは共通番号による一元管理制度があったものの、83年に違憲判決が出て分散(セパレート)管理となった。納税者番号はあるが、共通番号を使ったデータ照合は違憲とし、国民情報への国家監視にストップをかけているという。

 

 高税率高福祉で知られるスウェーデンでは、47年に国民総背番号制が導入された。なりすましによる被害は米国に次ぐ高さとも言われているが、国に対する国民の信頼感が制度を支えている。教会による数百年にわたる住民記録管理の歴史がベースになっている。

 

 フランスやイタリアにも社会保障番号や納税者番号はあるが、為政者への警戒心の高さからマイナンバーのような名寄せ可能な共通番号は採用していない。

 

 マイナンバー制度については、「先進各国で導入され、有効に活用されている」と耳にすることが多い。だが、日本のこれまでの運転免許番号のように各分野別の番号制はあるものの、日本が採用した共通番号という仕組みは世界的には決して多数派ではないようだ。

納税通信 第3404号 2016年1月4日

 

 ここで注意したいのは、管理義務についてマイナンバー法には「必要な措置を講じなければならない」とあるのみで、「別室を用意しろ」となどと言っているのは「ガイドライン」(指針)にすぎないということだ。

 

 しっかり保管していれば、法的には「ウチなりの管理」で構わないのである。厳しい罰則規定が先立ってしまい、よもやガイドラインに従わないと懲役刑となるかのような幻想を抱かせるに至っているのが現状だ。

 

 そうしたことから一人歩きした厳しい罰則がマイナンバービジネス花盛りの状況を作り出している。専用の事務用品や金庫が飛ぶように売れているのはいいとして、なんともいかがわしいソフトウェアが法外な値段で売られているのを目にすることが増えている。

納税通信 第3404号 2016年1月4日

 

 アメリカは1936年に社会保障番号(ソーシャルセキュリティナンバー)を創設し、納税者番号として使ってきた長い歴史を持つが、官民の広い分野で共通番号の活用が進み、さらにインターネット時代に入って問題が続出。なりすましによる被害は2006年〜08年の3年間でl170万件、被害総額は1兆円とも5兆円ともいわれている。

 

 さらに驚くべきは韓国で、14年にカード会社や銀行口座関連の個入情報1億4千万件が流出している。ちなみに同国の14年の人口は5042万人である。韓国は13桁の住民登録番号で、米国と同様に官民多くの分野で活用してきたが、インターネットの普及に伴い大量に情報が流出した。

 

 こうした状況から、アメリカも韓国も共通番号制の方式を抜本的に見直す方向で議論されている。フラットモデル先進国の状況から何を学び、そして取り入れていくかは日本でももっと広範に議論されていくべき問題だ。

出典  東京税理士会 情報システム委員会